四国4県合同研修会(香川県精神保健福祉士協会 課題別研修Ⅱ) 報告

 

【日  時】  2022124日(日) 10:0012:30

【テ ー マ】   精神保健医療福祉の将来ビジョンと社会的復権の黎明

【講  師】  尾形 多佳士 氏(公益社団法人日本精神保健福祉士協会 副会長/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院)

【参加者数】  33名                                  

 

●研修報告

 今回の課題別研修は、Zoomを用いて四国4県合同で研修をおこなった。現在、公益社団法人日本精神保健福祉士協会(以下、本協会)副会長である尾形 多佳士氏をお招きし、20226月より本協会が掲げた精神保健医療福祉の将来ビジョンについての理解を深め、社会的復権について考える機会とした。

 まず初めに、当協会 齋中会長より講師紹介及び挨拶があり、本研修が「MHSWとしてどうありたいか」を考える貴重な機会になればと話された。

 

 尾形氏から、まずは所属機関である医療法人社団五風会 さっぽろ香雪病院についての紹介があり、続いて本協会についての紹介があった。本協会では、専門職団体としての役割期待を3つ掲げている。①個人の力では解決できない現場の問題を持ち寄る場、②個人では成し得ない社会環境・社会制度・政策などへ働きかける場、③構成員の資質向上を果たし得る場を、ソーシャルワーカーとして『すべての人』の幸せを具現化するために必要としている。これらの役割を果たすことで、社会的復権のために政策への働きかけにもつながるとしており、本協会の定款第3条にも明記されていることである。しかし、この『社会的復権』という言葉は、MHSWである私たちにとっては少なからず1度は聞いたことのある言葉だが、尾形氏は、『社会的復権』はMHSW固有の言葉だと話す。尾形氏はここから、社会的復権とは何かを紐解いていく。『社会的復権』の狭義の意味では、長期入院・社会的入院の解消とし、広義の意味では、クライエントの「ごく当たり前の生活」の実現であると捉えられ、その中で尾形氏は多様な考えがあることが分かってきたそう。結果、権利擁護部合同プロジェクトとしての『社会的復権を語ろう運動』をおこない、本協会構成員へのコラムや研修による啓発や、アンケートによる意識づけにつなげている。特にアンケート調査では、『社会的復権』を知らない構成員が一定数いることが分かってきた。近年MHSWの所属や職域が広がったことで、社会的復権という私たちの役割への意識が薄れていることも考えられ、改めて語り継ぎ、意識を高める必要があるとした。恐らく『権利擁護』という言葉の方が馴染みあると思われるが、権利擁護と社会的復権はほぼ同義である。精神疾患・精神障害を理由に精神科医療によって当たり前に持っている権利を奪われていることに気づき、そしてそれを取り戻すことが私たちの使命である。そのために、どの職域にいるMHSWであっても、自分自身の実践に引き付けて考えることが、その第一歩につながると語りかけた。

 続いて、尾形氏が実際に所属機関でおこなった社会的復権のための取り組みについての紹介があった。まずは、日常の中に潜んでいる権利侵害は何かを考えた。そして、それを個人で完結するのではなく、同じ部署の中で身近にある権利侵害について話し合った。話し合いを通して、具体的にできる実践はないかを部署のみんなで考えた結果、尾形氏の所属するさっぽろ香雪病院では、3つの取り組みにつながった。1つ目に、医療保護入院者退院支援委員会の改善である。中でも退院支援委員会にクライエント本人が参加することを重視し、2014年~2016年の間での委員会では本人参加率が49%であったところを、2020年度にはクライエント本人参加率が82%にまで上昇した。同時に、地域援助事業者の委員会参加率も上げることに成功した。これは、退院支援委員会についての案内や、病棟へのポスター掲示、院内や部署内での勉強会による周知により、本人及び職員への意識づけをおこなったことで改善されたと考えられているとのこと。また、医療保護入院者退院支援委員会への相談支援事業者等の出席を円滑にするための予算措置についての課題を挙げ、地域自立支援協議会を通し、地域課題として札幌市に働きかけたことも大きい。2つ目に、地域移行支援の導入である。2018年度まで地域移行を利用したことはなかったが、翌年度には5件、翌々年度には11件と実数を増やした。また、地域移行支援においてピアサポーターの導入を試み、地域のピアサポーターを招いて2回勉強会を開催した。他、ReMHRAD630調査、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(以下にも包括)の資料等を部署全体で活用するようになった。尾形氏は、にも包括の名称について、何故わざわざ「精神障害にも」をつけるのかと疑問を抱いている。そもそもにも包括は、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができる社会を作ることを大きな目的としているが、精神保健医療は別物として扱われがちであるともいえる。尾形氏は、このにも包括の名称から、「精神障害にも対応した」を取り外すことを目標にMHSWで働きかけをしていきたいと語った。また、地域移行支援事業を活用し、数字を示すことで、今後の社会的復権のための働きかけにもつながっていくと説いた。3つ目に、ライフミーティングの新設をおこなった。ライフミーティングは、新規退院支援グループワークであり、長期入院者の退院意欲の喚起を目的に実施した。対象は入院期間が1年を超える長期入院患者で、MHSW・OTR・CP・Ns等、多職種協働で実施。作業療法の一環として本グループを位置づけ、点数算定をおこないながら11時間のグループを月2回実施した。グループワークでは、ゴミの分別や金銭管理をテーマとした勉強会、退院後の理想の生活の共有、法人事業所のスタッフを講師としたワークショップ等、多岐に渡る内容で参加者への意欲喚起につなげた。実際に退院につながった人の中には地域移行支援を活用した人もいた。また、所属機関内での3つの内の他の取り組みにもリンクすることができた。他にも、対人交流や活動量、言葉の量が増えて社会的活動性の向上性にもつながったのではないかと示唆された。

 最後に、尾形氏が私たちに伝えたいメッセージとしてまとめに入った。MHSWにとってのクライエントとは、従来は精神疾患・精神障害を抱える本人を対象としていたが、原則、日本に暮らす「すべての人」が対象となった。私たちMHSWは、メンタルヘルスの観点から、「人(ライフステージ・ライフイベント)」と「環境(社会的要因)」の両面を常に意識するものとしているため、どちらか一方だけでいいものではないことを改めて意識したい。尾形氏は、本協会前会長である柏木 一惠氏の「社会的入院こそ精神科医療における最大の人権侵害」という言葉を紹介した。その上で、自分に出来る『社会的復権』とは何かを自分の実践に引き付けて考え、組織レベルでも考えて共有し、意識した実践につなげることが必要だと語った。所属機関での実践も然りだが、積極的な本協会活動への参加・参画による本協会の活性化や、クライエントの利益につなげていけることも期待した。ここまで、退院支援についての話もあったが、最後に「退院意欲の喚起とは、退院支援意欲の喚起である」という山本 深雪氏の言葉を紹介された。私たちは退院支援において、クライエント自身に退院に向けての意欲を持ってもらおうと思ってはいないだろうか。退院支援というものはそうではなく、私たち支援者自身への言葉であることを認識していきましょうと締めくくられた。

 

 後半はグループワークを実施した。グループワークでは、今回の講話を聴いての感想や、実践に向けて明日からできること等について話し合った。また、今回は四国4県合同での研修とあって、各県での取り組みや現状などの情報共有の場にもなり、実りあるグループワークとなった。グループワークの後は、尾形氏からの総括があった。グループワークの間、いくつかのグループを回られる中で、「退院の対象者に65歳以上の人が挙がりやすいという現状がある」と話し合ったグループの例を挙げられ、「65歳になる前に退院できるチャンスはあったはずなので、今も入院しているクライエントにもっと目を向けてみましょう」と呼び掛けた。また、今回の研修会に参加した人たちには、何かしらの問題意識を持って参加していたのではないかと感じているので、協会活動を通して皆で考えていけたらいいなと思っている、と述べた。そして、来年には日本精神保健福祉士大会愛媛大会が開催されるため、そこで四国の会員の方々と顔を合わせられることを楽しみにしていると締めくくられた。

 

 

 

報告  松下 瑞季(地域活動支援センター クリマ)