37回 中四国精神保健福祉士大会 山口大会 報告

 

【日  時】 20221022日(土)12:3017:001023日(日)9:3012:15

【場  所】 オンライン開催(Zoom

【テ ー マ】 ソーシャルワークの不変性と可能性

~私たちソーシャルワーカーには未来を変える力がある~

 

●大会1日目 基調講演・シンポジウム報告

 爽やかな秋晴れの中、Zoomを用いたオンラインにて、第37回中四国精神保健福祉士大会 山口大会が開催された。開会式では、実行委員長 的場 律子氏より開会宣言があり、その後、大会長 佐内 節子氏より挨拶があった。

 

 基調講演では、『ソーシャルワーカーの不変性と可能性~変わっていくものと変わらないもの、そして変えなければいけないもの~』と題し、日本社会事業大学専門職大学院 教授 古谷 龍太氏よりご講演いただいた。(日本精神保健福祉士協会は、精神保健福祉士の略称をMHSWに変更してあるが、古谷氏は本講演にてPSWの略称を使用しているため、統一してPSWと表記する。)

 初めに、『変わっていくもの』に焦点を当てる。私たちの生きる時代は、世界に目を向けると国際社会への緊張度が増し、競争の激化が著しい。日本の変化としても、衰退途上国という形となり、産業構造も雇用・生活環境も変化している。そのような状況の中で、漠然とした不安を抱えて生活をし、メンタルヘルスに関する課題を抱える人が急増した。特に、現代においては、近年私たちを悩ませている新型コロナウイルスの流行がその不安に拍車をかけてもいる。その中で、私たちが仕事として掲げるソーシャルワークとは、「生活課題に取り組み、ウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかけるもの」と定義されている。障がい者については、2001年から掲げられているICFにおいて、自己の一部として障がいがある人(その人の特徴の一部)という認識へと変化している。世界の認識の変化は、日本にも取り入れられ、公助が当たり前だった時代が、自助の時代へと変化していっている。古谷氏がまとめられたPSWの世代間格差については、精神衛生法の時代~クラーク勧告の時代を担った世代は社会主義、Y問題~1997年精神保健福祉士法成立の時代を担った世代は社会民主主義、精神保健福祉士の誕生~近年を担った世代は新自由主義を中心とした思想であったと示す。世代間でのギャップは当然生ずるものであり、今後例えばY問題のことなどを知らない世代も出てくることは自然なことである。業務内容の変化もあり、PSWとしての共通認識が難しくなる時代がやってくるのだということを古谷氏は懸念している。その中で、日本精神保健福祉士協会は、PSWからMHSWに名称を変更した。名称変更について、日本精神保健福祉士協会の構成員から様々な意見が寄せられた。たかが名前、されど名前、であり、言葉が内容を規定するものである。PSWMHSW)のアイデンティティをしっかり持っていきたいものである。国内のこころの病気の急増について焦点を当ててみると、1999年から比べ、2018年には精神科患者数は2倍となった。そして、65歳以上の高齢者の割合も2倍に増えている。また、新規入院患者は入院短期化が図られているものの、長期入院患者の動態は変化がないというのが現状である。1970年代から、地域精神医療は変化を成してきた。多機能型の診療所が増えたことや、地域で利用できるサービスの充実化も相俟って、本人が地域で生活できる環境が整い始めた。

続いて、『変わらないもの』に焦点を当てる。私たちPSWはソーシャルワークをおこなうワーカーであるが、ソーシャルワークの価値やそこにかかわる原理を大切にしなければならない。価値とは、何かを大切にし、理念や目標を規定するものである。日々揺らぎながらも、根腐れさえ起こさなければ、価値を保ち続けることができるのではないか。一方で、日本の精神医療に目を向けると、日本は世界一の精神科病院大国であり、海外からの勧告を受けながらも精神科病院内の権利侵害事案が頻繁に発生している。私たちPSWは、社会的復権・権利擁護を倫理綱領に掲げているため、その役割を担うためにソーシャルワークをしていかなければならない。現在日本の精神科病院において社会的入院が課題に挙げられていることは周知の事実である。長期入院を余儀なくされている入院患者の方々は、なぜ退院できないのか。入院が必要としているのは誰か、なぜ入院し続ける必要があるのか、なぜスタッフは諦めているのか、PSWのミッションはもう終わったのか、現行の精神保健福祉士法の入院制度はおかしいと思わないか。私たちは、様々な角度から疑問を持ち、考えなければならない。

次に、『変えなければならないもの』に焦点を当てる。古谷氏は、精神医療国家賠償請求訴訟研究会でも精力的に活動をしている。精神医療国家賠償請求訴訟(以下、精神国賠)の原告となっている伊藤 時男氏の紹介と、その歩みを踏まえて、私たちPSWへの問いを投げかけた。今回の精神国賠の原告となった伊藤氏だけではなく、現在社会的入院の中にいるすべての当事者の権利擁護のために、私たちができることを考える必要がある。

続いて、『未来を変える力~いくつかの道標をたよりに~』をテーマに、時の流れを意識しながら、未来を変える力とは何なのかを考える。スポットライトは、1カ所を明るく照らすものだが、その周りをしっかりと見ることが重要である。「地域共生社会」というスローガンを国が打ち出し、高齢者介護で定着した地域包括ケアをモデルに、2017年より精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が打ち出された。当事者が地域で生活をする上でのサービスの充実化や地域へのアプローチについて掲げられているが、今後は更に当事者本人がサービス提供者や医師等と対等な立場となり、関わっていくことが望まれる。これは、共同創造とよばれる。共同創造の原則は、「対等性」「多様性」「アクセス(共同創造への参加が誰かにとっては難しいようなことがあってはならない)」「相互性」とされている。そして、医療保護入院制度への問いも大きく残る。

最後に、古谷氏が考える、日本におけるPSWの業務と実践による未来を変える力について。日本人は「和」を尊ぶ人種であり、それが美徳であるともされている。しかし、それは裏を返せば異論を認め難い風潮であり、新しいことを排除しようとしたり、おかしいと思ったことに口を噤んでしまう傾向にあるとも言える。そうではなく、戦うことが必要であるが、ただ勢いよく立ち向かう戦い方では日本でのやり方にはそぐわないため、「静かに戦う」ということが必要である。つまり、相手を敵視するのではなく、課題として外在化・共有化することを大事にしたい。私たちPSWは、調整する仕事を得意としている。存分にPSWの強みを発揮し、静かに粘り強く戦い続けていきましょうと、古谷氏は締めくくった。

 

後半は、『私たちソーシャルワーカーには未来を変える力がある』をテーマに、シンポジウムをおこなった。シンポジウムには、広島県 三原病院 向井 克仁氏、徳島県 第一病院 黒下 良一氏、愛媛県 内子町地域包括支援センター 菊池 健氏の3名のシンポジストと、基調講演より引き続き古谷 龍太氏がコメンテーター、山口県 山口県立大学社会福祉学部 教授 宮﨑 まさ江氏がコーディネーターとして登壇した。シンポジストの3名は、現在各県協会にて会長を担われている方々であり、各県協会の取り組みを中心に実践を紹介された。

まずは、向井氏より「専門性の継続と展開」と題して発表があった。まず、向井氏自身のPSWとしての原点や、就職当初は専門性・アイデンティティが曖昧なままであったことを振り返られた。入職当初から抱えていたという医療機関で働くことへの葛藤やジレンマについて、医療・治療が主になる場で、福祉・生活者の視点から支援をおこなうことの違いに葛藤したという。その中で、県協会での経験が救いになったとも話される。広島県は特に後進育成や専門職としての成長の視点について先駆的に取り組まれていたこともあり、自己研鑽につながった。原点や理念は変わらないものとして保たれるべきものであるが、その理念を一人で持ち続けることは難しいものである。そのために、自己点検が必要である。最後に、専門職としての原点に拘れば拘る程、可能性は広がるのではないか、と締めくくられた。

次に、黒下氏より、本大会テーマと同タイトルにて発表があった。黒下氏のPSWの原点は、実習先で出会った先人から「おかしいことはおかしいと言わないと、おかしいままになってしまう」と教わったことから、やってみようと考え就職したという。いざ就職したものの、最初は一人職場で何から始めればいいのかわからないことだらけであったという。入院したら退院するのは当たり前ではないのか?という疑問から、現在でいう退院促進や地域移行のために、職員寮の空き部屋を利用した練習や退院した人を招いての談話会等の取り組みをおこなった。そして県協会では、地域生活を体験できる機会を提供するため、「アパート体験利用事業」の企画・運営や、地域移行支援事業の啓発活動としてDVDを作成する等の活動を展開しているとのこと。地域移行や地域定着支援は、精神保健福祉士の職務の核に近い部分であり、その一歩を踏み出すために価値や理念を大切にしなければならない。しかし、日々の業務に追われてジレンマや不全感を抱くこともある。そういった時に、職能団体等を通じて、仲間とつながり話すことを大切にしたいものである。

次に、菊池氏より「愛媛県精神保健福祉士会の活動について」と題して発表があった。これまでの愛媛県の取り組みについて、県協会の概要、相談支援事業所・法人後見センター、協会の法人化の報告があった。愛媛県は2011年に一般社団法人として精神保健福祉士会を設立し、社会的復権と権利擁護の実践のために、相談支援事業所トポス松山と、法人後見センタークローバーえひめを開設した。法人化をしてから、精神保健福祉士としての誇りを手に入れたように感じることができたり、活動が増えたことで理想論だけを語る団体ではなく実践を展開できる立場になれたりといったメリットを感じられている。また、当事者のために委託事業を展開したり、交通運賃割引の改善に向けたソーシャルアクションを起こしたりもできたという。

シンポジスト3名の発表の後には、Zoomチャット欄に寄せられた質問について回答をおこない、交流の機会にもなった。質問は、各シンポジストのこれまでの取り組みと、更には基調講演の内容にも沿いながら、他職種へのアプローチや、地域移行による退院促進等に関連する内容が多く寄せられていた。また、このコロナ禍の影響による、PSW同士のつながる機会についても話題となり、オンラインの利便性も感じられるが、またコロナ流行前のように顔を合わせて一緒に空間や時間を共にすることができればという意見も挙げられていた。

最後は古屋氏からコメントがあった。古屋氏からは、現在の私たち支援者の当事者への姿勢として「支援」という言葉が使われているが、実は「支援」という言葉は不評であることを指摘された。では、次にくる言葉はなんだろう、と投げかける。私たちPSWは自分自身のかかわりについて振り返りをおこなうことを重要視するが、ただ一人で振り返るだけではなく、対話を通じて自身の考えを言葉にし、他者と共有することが必要である。そのために、職能団体に属することに意味が生じ、新たな気づきを得られる。対話をするために、仲間とのつながりを大切にしましょうと締めくくられた。

 

報告  広報部 松下 瑞季(地域活動支援センター クリマ)

 

 

 

○大会2日目 分科会報告・感想

【分科会① ソーシャルワークの不変性~多職種連携の中で求められるもの~】

1023日(日)の分科会①では、3名の発表者の方より各々の活動についての報告がありました。愛媛県の松山記念病院の山本久美氏からは、病院内での退院支援を進める中で退院支援グループの他、新人職員向けの全職員研修、退院者を迎えてくれた地域の事業所向けの研修を実施し、本人だけでなく、職員、地域の3方向に継続してアプローチすることで皆の意識が変わっていったとの話が印象的でした。香川県のスクールソーシャルワーカーの白井理香氏からは、12年間のスクールソーシャルワーク実践のお話でした。学校は、生徒の問題に個別に対応していくのが難しい環境です。その中でいかに生徒たちの毎日の小さな変化に気付き、現場の教諭とも情報共有しながら、生徒を信じ、決して否定しない関わりを続けるか、生徒自身が自分の目標を見つけ出せたときにやりがいを感じるとのことでした。最後に、広島県のジェイワークスの上堂薗順代氏からの報告でした。上堂薗氏自身がアルコール依存症の体験があり、入院先のMHSWとの出会いを契機に依存症から回復し国家資格を取得しました。現在はASKメンバーとして、オンライン断酒会の立ち上げなど、依存症の支援を積極的に行っているとの話でした。当事者と支援者両方の立場から、「当事者がおいてけぼりにならないように。当事者も含めてのチームであってほしい」とのメッセージが心に残りました。

(三船病院  大石 由実)

 

 

【分科会② ピアの関わりについて~リカバリー~】

 分科会2では、山口県の高嶺病院から岡村氏と秋元氏による「依存症専門病院における回復者スタッフの役割」、島根県の島根大学から足立氏による「当事者と支援者は融合できるのか~きらりの集いを終えて~」、岡山県の希望ヶ丘ホスピタルから奥田氏と船曳氏による「リカバリー志向の病院を目指して~精神保健福祉士とピアサポーターとの協働~」の3題が発表された。その中でも私が特に印象的であったのは、2題目に発表された「きらりの集い」におけるかかわりについてである。きらりの集いとは、ピアサポートとリカバリーをテーマに、当事者と支援者が協働でつくるイベントである。社会的な肩書や役割をいったん取り払ったフラットな関係性のなかで、お互いを違ったまま認め協働することが理想とされている。

きらりの集いの理想を意識し、取り組みを進めていた足立氏は、ある日、当事者から「あなたは健常者…」という言葉を投げかけられ、それまでうまく進んでいた関係性が崩れてしまい、関わり方の難しさを思い知らされたと話されていた。ソーシャルワーカーから「対等な関係性」という言葉はよく聞くことがある。しかし、当事者側から見ると、私たちは「職員や支援者」であり、立場の違いもあるために、「対等」とは思われ難いだろう。私も、以前の実践において、同様の経験があるため、発表者の悩む気持ちに共感した。

 その後のグループワークでは、ピアサポーター・当事者との「対等な関係」について、「馴れ合いとも違う」「友達でもない」という意見が話され、「職員と利用者・当事者の関係であって、課題を外在化して進めていく。きちんと意見が言い合える関係を築くには、信頼関係が必要なのではないだろうか」と考えをまとめていった。

 本分科会に参加し、ピアサポーターが持つ経験に基づいた意見が、医療現場の支援において意義があるものだと理解できた一方で、専門職と当事者の関係を構築する過程において様々な困難が生じていることを理解することができた。ピアサポーター以外にも、私たちは当事者と協働して取り組みを進めていく機会があるだろう。その時、「対等な関係性」を安易に考えてことを進めるのではなく、それぞれの立場の違いを理解した上で、関係構築を図っていかなければならない。改めて、当事者と共に取り組みを進めていく専門職として「対等」ということをどのように捉え、かかわりを進めていくのかを考える機会となった。

(宮本 雄太郎)

 

 

【分科会③ 福祉の可能性を考える】

この分科会では、福祉に対する概念や常識を変えるような取り組みや、先進的な取り組みをしている事業所からの発表が3演題あった。

 1題目は、障害者雇用事業所「こうぎんチャレンジとっとり」(山陰合同銀行の特例子会社)でMHSWとして活躍されている前田由佳さんの発表だった。ある職員の事例では、本人の想いを聴き不安や迷いに寄り添い、本人がそれらにうまく付き合う方法を身に付け本来の力を発揮できるような働きかけや、業務配置や環境調整も行っていた。また自身の働きかけの一つひとつがMHSWの価値・視点の何に相当しているのか丁寧な振り返りを行うなど、一人職場でモチベーションを維持する工夫や努力がうかがえた。また通常業務に留まらず企業全体に対しても、保健師との連携やメンタルヘルス普及活動、地元企業障害者雇用困りごとサポートやネットワーク作り、医療福祉から企業へ切れ目のないサポートへの連携など、MHSWとして企業側からアプローチを展開していた。地域や社会全体への障害理解や雇用促進など産業分野における今後の展開が期待される発表であった。

 2題目は、徳島県精神保健福祉士協会アパート体験利用事業の利用に関して、藍里病院の原あすみさんからの報告であった。本事業はH27H29R元年の3回、単身者アパートを2ヶ月契約し、県内の7精神科病院が1週間ずつ交代で自由に使用できるシステムであり、演者の療養型開放病棟在院患者8名の体験利用について紹介された。見学、家事、余暇のグループに分かれてMHSWが同伴し体験利用した結果、12年以内に8名中7名が退院した。ひと時であってもアパートに滞在するという体験は、改めて自身の退院に思いを馳せ、より良い選択や決断、新しい可能性などマインドビジョンに繋がる機会となっていた。MHSWの直面する課題に対し、職能団体の仲間の大きな力が実際にその原動力となった好事例の紹介であった。

 3題目は、就労支援事業所(NPO法人ワークスみらい高知)の取組みを、特にsweets factory(工場直営スイーツ提供事業所)での実践について安光美沙さんより発表があった。一般の顧客から選ばれる店を目指すというコンセプトのもと、各事業所責任者による売り上げ目標、商品開発、利用者支援の情報共有、利用者アイデア活用、作業マニュアル化などが事業に展開されていた。利用者支援については、よく観察する、得意な作業を集中的に伸ばしオンリーワンを見つける支援、厳しさの中に楽しさを見つける、聴く力を身につけるなどの取り組みや、全員での話し合いなどの取り組みがなされていた。利用者自身が商品に自信を持って就労することで収入の安定や豊かな生活を目指したいという展望は、もはや一般企業と対等にビジネス展開が進んでいると感じ得た発表だった。

 

(竜雲メンタルクリニック  下河 芳子)