第35回 中四国精神保健福祉士大会 岡山大会 報告
【日 時】 2019年12月21日(土)13:00~17:30、12月22日(日)9:15~12:10
【場 所】 岡山コンベンションセンター
【テ ー マ】 ソーシャルワークの魅力体感アドベンチャー~対話で進化・深化・真価~
●大会報告
年の瀬を感じる岡山の地にて、35回目となる中四国精神保健福祉士大会が開催された。岡山駅の間近に位置する岡山コンベンションセンターの会場に、駅前のクリスマスの雰囲気も漂ってくるようにも感じられた。
まずは開会式にて、岡山県精神保健福祉士協会会長及び今大会長である河合氏より挨拶があった。今大会では、「かかわり」と「対話」をキーワードとし、日々の業務の中での自分自身のかかわりを振り返る機会となればと述べられた。そして、開会式後に基調講演へ移る際、実行委員長である中山氏が今大会テーマのアドベンチャーに沿って、インディージョーンズよろしく冒険家の服装に身を包み、実行委員長もとい隊長に扮して登場。中山隊長から基調講演講師の紹介があり、そこからは和やかな雰囲気に様変わりした後、講演がスタートした。
今回の講師は、岡山県精神保健福祉士協会にて事務局長も担われている、附属林道倫精神科神経科病院 地域医療部長 星昌子氏を講師に招き、「精神保健福祉士のかかわりの基盤となる価値」を演題に、PSWが大切にしてきたかかわりを今一度考え直す機会とした。まずは星氏がPSWとして働いてきた人生の振り返りとして、PSWの歴史に沿いつつ、星氏自身のPSWとしての実践の紹介があった。当時PSWがまだ国家資格としても認められていなかった頃…今や精神障がい者の退院後の生活を支える地域の受け皿でもあるグループホームやホームヘルプサービス等がない時代。その頃といえば、病院のPSWが退院後の生活を支えていた。その活動を通して、星氏は「PSWはどうあるべきか」と考え始めていたという。現在、『リカバリー』の理念が浸透してきているが、当時群馬大学医学部にて『生活臨床』というものが日本のリカバリー理念として生まれた。星氏も生活臨床の影響を大きく受けた。当時のPSWは、病院の中でも自由のきく立ち位置であり、「なんでもできる」という点を武器に日々駆け回っていた。例えば、患者が退院する先が施設となった場合に、その施設はどんな環境でどんなケアを提供するのかを実際自分の目で確かめに行く等である。当事者にとってのメリットを考えて動く存在として、自分の目で確かめることは重要だ。これは星氏のPSWとしての人生において大きな意味があり、次世代育成の際にも自分の目で見ることを推奨していると話す。
続いて、星氏はこれまでかかわってきた中での3つのケースを紹介された。星氏はケース紹介の前に、「失敗や後悔があるケースは、記憶によく残ります」と話され、1つ目、2つ目のケースは星氏にとって、後悔の残る体験だったとのこと。
まずはAさん(男性)のケース。Aさんは星氏が初めてPSWとして担当したケースであり、当時まだ病院にはデイケアがなく、これから立ち上げようとしていた段階でかかわりがスタートした。デイケアを利用してもらう当事者を探すために、星氏は一人ひとりの家を訪問して回っていたそう。入院中のAさんは星氏と楽しく話をしてくれていたが、退院後は家でコーヒーやタバコばかりの生活で何もしないAさんに、家族は将来に不安を抱いていた。行く所がないからという理由から何もしない生活が続いていたAさんだったが、「息子(当時小学生)が可愛い」と話してくれたことから、「息子さんにかっこいいところ見せよう!」と就労を目指して、星氏はAさんと共に行動を始める。今でいうジョブコーチの役割を担ったという。元々アルコール依存傾向のあるAさんは酒を止めることができなかったが、1つの職場に根付くことができた。その後、仕事を休むことが増えてきたことを懸念し、ストレスを吐き出す場としてデイケアOB会を設立。デイケアOB会は、現在のナイトケアの前身として運営されていた。当時のOB会はデイケアを卒業して就職等により社会へと出発した先輩たちの居場所として、デイケアを利用する当事者にとっての目標にもなっていたという。しかしOB会を通しても、Aさんの酒が止まることはなかったため、夜にAさんの自宅を訪問することにした。そこで、PSWだけが訪問をするのではなく、訪問看護が必要なのではないかと感じたという。それは、PSWが実際にやってみることで、当事者に必要なものが見えてくるのではないかと実感したことだった。そして、Aさんはその後残念なことに死を迎えてしまったのだが、ここで星氏が感じたのは、「何が足らなかったのか」と考える必要があること、そして「本人は辛かっただろうな」という気持ちだったという。私たちPSWは、当事者に寄り添い、その人が望むものや必要なものを考える立場でありたいものである。
続いてBさん(女性)、障がいがあることを隠して結婚したが、出産を機に病気が再発し、嫁ぎ先から縁を切られてしまったというケース。縁を切られてしまったことで、退院先として帰る先もない、仕事もないとBさんが苦しんでいた。「住み込みでもいいから働きたい」と話すBさんに、まずは生活の基盤を整えることが大事ではないかと星氏は提案した。当時、グループホームはない時代であった。そこで星氏は、Bさんが共に過ごして笑顔になれるという同時期の入院患者である仲の良い人と一緒に住める共同住居を用意し、退院後そこでの生活を2人でスタートした。Bさんは共同住居から仕事にも通い、星氏の目にはうまくいっているように映った。しかし、Bさんは亡くなってしまった。その理由を考える中で星氏が行きついたのは、Bさん自身が入院する前に「子どもに会いたい」「子どもの成長を見たい」という思いを封印してしまっており、PSWもそこに触れてはいけないと思っていたからではないかという考えだった。私たちPSWは、デリケートな部分に触れることもある職業でもある。もちろんそこに触れることにはかなりの勇気と関係構築が必須だ。当事者本人が言葉に出したことだけが自己決定ではなく、これまでのその人自身の人生をひっくるめて、その人が望むことは何なのかをとらえること。そして、心の底にある希望を出せない世の中であってはならないということを、大切にしていかなければ、私達の自己満足となってしまう。少なくとも、私たちは、彼らが望む将来の目標や夢のために当事者自身が努力しようとすることを阻止せず、応援していく存在でありたい。
最後は、星氏の中でもうまくいったと感じたCさん(男性)のケース。障がいを持つ自分が嫌で、精神障がいを抱える人の集まりも好まない、いわゆる「いい格好しい」のCさん。同居していた両親が親亡き後のことを心配して、「この子が可愛い。力はないが、この子のことを考えたら、手を離さないといけないと思う」と話してくれたことをきっかけに、その5年後より1人暮らしをスタートさせた。1人暮らしスタート当初、「さみしくて何をしたらいいかわからない」と話すCさんに、星氏はピアサポーター講座を勧めた。以前から講座を勧めてはいたものの、先述の通り、精神障がいを抱える人の集まりを好まなかったため断るかと思われたが、Cさんは意外にも飛びついたという。ピアサポーターとして話をする人が、Cさんの目に格好良く映ったのだそう。これはCさんの中にあった精神障がいに対する偏見が払拭された瞬間だった。それからCさんは「自分が体験談を語ることで他の人を助けたい」「自分の病気のことを堂々と言えるピアサポーターは格好良い」という思いから、ピアサポーターになった。Cさんはピアサポーターとして、初めて電話相談を担当した際、自分が「死にたい」と思った時のことを話したりして、相談をしてきた人を救ったというエピソードもあるそう。「死にたい」と思う当事者に、PSWはうまく助言はできないが、ピアだからこそできる助言がある。PSWにできるのは、エコマップを広げることである。ただし、そのエコマップが病院、相談支援事業所等だけではなく、例えば女子会の仲間やスポーツサークルの仲間等、本人の生活を彩る存在をつなげたり広げたりしていくことが大切である。しかし、エコマップを広げたからと言って症状が落ち着くわけではないが、これは仕方のないことだと星氏は話す。しかし、体験を通して、喜びを体感することが、本人らしい人生につなげていけるのではないだろうか。その後Cさんは、東京の方で開催されるリカバリーフォーラムに参加することを毎年の目標に設定した。フォーラム参加後には必ず調子を崩していたが、「それでもフォーラムに行きたい」と希望した。年々Cさんのフォーラム後の調子の波は小さくなっていき、3回目には入院せずにいられるようになった。医療者側としては、調子が悪くなる可能性があると、その芽を摘もうとしてしまうものである。しかし、それでは本人のやりたいことが妨げられてしまい、本人は楽しくないはずだ。Cさんのように、自分のしたいこと・やりたいことをはっきりと発信できることは素晴らしいことである。入院患者さんに「何かしたいことは?」と尋ねたことがあるPSWは大半いるだろう。その質問にどれだけ本人が夢を語ってくれただろう。恐らく、「○○が食べたい」等の生活の基本となるような希望が多く挙がったのではないだろうか。そういったことも確かに自己決定ではあるが、もっと本人が描く夢やしたいと思うものを求めることが、私達PSWが応援すべき自己決定である。星氏は、「Cさんのように、自分がしたいことを叶え、輝いていくところをそばで見て行けるPSWは素敵な仕事だと思う」ときらきらした笑顔で述べられた。
PSWはケースワーカーではなく、ソーシャルワーカーである。壁が社会にあるならば、その社会を変える存在でなければならない。私たちが不自由を感じているのであれば、当事者も同じように感じているはずである。星氏は、「PSWはもっと夢を語り合い、そして当事者と共に社会に働きかけていく必要があるのではないか」と述べた。人生はみな平等に一生に一度である。私たちPSWが夢を抱き、そしてその夢を語りながら、望む社会と人生を彩っていきたいという星氏の熱い想いが会場全体を包み込んでいた。
後半はワールドカフェにて、「精神保健福祉士の魅力を語る!」をテーマに、3つのセッションに取り組んだ。まずは初めのグループにて、①現在自分の出会っている現場で取り組んでいること(戸惑い、悩み、喜び等)を話し合った。続いて、グループを変わり、②自分がソーシャルワーカーとして取り組んでいること・取り組みたいこと(何にやりがいや喜びを感じるか?)について話し合った。2番目のセッションでは、各グループで話し合っていたことをホスト役や他のグループメンバーから話を聞いた上で、意見交換をおこなった。最後には元のグループに戻り、2番目のセッションで話した内容をグループ内で共有し、③あなたが思うソーシャルワーカーの魅力とは? について話し合った。最後に各自「私にとって精神保健福祉士の魅力は○○○○○です」とワークシートを記入し、自由にそのワークシートを見て様々な『魅力』を共有した。参加者の人数分の様々な魅力の中には、「私にとって精神保健福祉士の魅力は無限の可能性があることです」「かかわりがあることです」「利用者さんとくだらん話をする時間です」等々その人らしい言葉で綴られていた。
2日目は、分科会1「ネガティブ ~GOODネガティブをソーシャルワークに活かす~」、分科会2「ワークライフバランス ~自分らしい生活ってどんなもの?~」、分科会3「平成30年7月豪雨災害に学ぶ ~私たち(精神保健福祉士)にできること~」、分科会4「精神保健福祉士の多様性」、分科会5「リカバリーde対話」をテーマに、各々対話をおこなった。分科会4においては、当協会から教育分野より自立援助ホーム歩~AYUMI~の森岡氏が登壇。他、医療・福祉・行政・司法・企業と様々な分野で活躍しているPSWが実践を踏まえての魅力や求められていることを共有した。
今回の中四国精神保健福祉士大会 岡山大会は300人を超える参加者が集まった。大会の実行委員には、学生実行委員も携わっており、将来の仲間の協力もあったという。次の開催地は広島県。今大会での仲間たちとの再会を楽しみに、今大会での学びを日々の業務に活かしていきたい。
報告 松下 瑞季(地域活動支援センター クリマ)
○分科会報告
【分科会1 ネガティブ】
分科会1では、「ネガティブ」~GOODネガティブをソーシャルワークに活かす~というテーマでグループワークをおこなった。ワークシートを用いて、仕事をする上での自分自身のネガティブな一面を書きだし、発表していったのだが、ネガティブな部分を共有するだけではなく、ネガティブな部分を聞いたグループメンバーがリフレーミングをおこなっていった。自分の順番がくると少し照れくさい時間でもあったが、ネガティブに思ってしまうことも目の前にいるクライエントを支援するために大切なことなのだと見方を変えることが出来た。働く場所や環境が違っていても、「クライエントとの距離が近くなる」「多職種からの圧がすごい」「家に帰っても考え込んでしまう」「豆腐並みの精神力」など共感する部分が多かったように思う。愚痴を言い合うのではなく、次の日からの実践に生かせるようにPSW同士で語り合う貴重な時間にすることが出来た。
障害者地域生活支援センターほっと 高橋 有理佳
【分科会2 ワークライフバランス~自分らしい生活ってどんなもの?~】
PSWとして仕事をしていく中で、自己研鑽が必要であることは言うまでもない。しかし、自己研鑽とは時にプライベートな時間を割く必要も出てくる。そのバランスを上手くとらないとストレスになったり、PSWとしての能力を上げるための自己研鑽がモチベーションを下げることになってしまいかねない。また、家庭やお子さんのいる人にとっては、仕事、家庭、子どものことをこなすだけで24時間があっという間に終わり、自分のことすらままならない人もいるだろう。人により、丁度良いバランスは違ってくると思うが、参加者の多くが悩みを持っており、何かヒントをもらえればという考えで参加されていた。
まず、ワークライフバランスシートにある1週間のスケジュールを各々書き込んでいった。それを見返すことで、客観的に見て、満足度や気づきについても各自シートに記入した。そのうえでグループごとに共有し、コメントをし合うことで、考えを深め合った。
最後に全員のワークライフバランスシートを見て回った。「この人すごい!」とか、「健康的だね」など、思い思いの感想を口にしつつ見学していた。これ、といった答えが見つからなかったにしても、参加者全員の1週間のスケジュールを見たり、客観的に自分のスケジュールを見ることで、自分らしいワークライフバランスを考え始めるきっかけはつかめたのではないだろうか。
大西病院 大杉 真央
【分科会4 精神保健福祉士の多様性】
現在、精神保健福祉士の働く場所は、精神科病院だけではなく、行政、司法、教育、企業などと広がってきている。分科会4は、各分野で働く精神保健福祉士の実践をきき、ソーシャルワークの魅力などを参加者も共有し、考える場となった。
登壇者は、IPSを行っている病院、子ども家庭支援センター、市役所障害福祉課、保護観察所、自立援助ホーム、株式会社、それぞれで働く精神保健福祉士であった。
香川県から自立援助ホーム歩~AYUMI~の森岡さんが登壇された。森岡さんからは、失敗の保障を大切に、自分で選択する機会を与えることを大切にしているという話があった。
どの登壇者も共通して、「その人らしい生活」、「自己決定」、「生活の質の向上」、「権利擁護」を大切にしているという話があった。働く分野は違っていても精神保健福祉士としてのベースは同じであるということを会場全体で共有することができ、有意義な分科会であった。
高松市教育委員会(スクールソーシャルワーカー) 白井 理香